7-1 高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)とは
高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)は,高性能AE減水剤と収縮低減剤を一液化したタイプの混和剤です。JIS A 6204 コンクリート用化学混和剤の高性能AE減水剤の規格に適合し,従来の高性能AE減水剤に対して乾燥収縮を5〜15%程度低減できることを特徴としています。
一般にコンクリートの乾燥収縮を低減する目的で使用する混和剤としては収縮低減剤が知られています。収縮低減剤はJIS規格にはありませんが,日本建築学会JASS 5にJASS 5 M-402:2009 コンクリート用収縮低減剤の性能判定基準として規定*22されています。
高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)は,収縮低減剤とは異なり収縮低減性を有する高性能AE減水剤ですので,生コン工場で通常の高性能AE減水剤と同様の取り扱いができ,簡便に低収縮なコンクリートを製造することが可能です。2007年頃に開発・市販されてから,混和剤メーカー各社が商品を取り揃え,生コン工場で一般的に利用されるようになってきています。
現在市販されている高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)は,いずれもポリカルボン酸系の減水成分と収縮低減成分を組合せたものであり,凝結時間の違いにより標準形と遅延形の2つのタイプがあります。
高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)の一般的な使用量はセメントに対して1.5%であり,通常の高性能AE減水剤の標準使用量が1%程度であるのに比較して1.5倍程度となっています。これは有効成分中に収縮低減成分を含むためです。
7-2 高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)の収縮低減メカニズム
高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)に含まれている収縮低減成分は一般に収縮低減剤として使用されている化学物質と同じ範疇に属するものです。従って,その収縮低減メカニズムは,一般の収縮低減剤と同様であると考えられます。
コンクリートの乾燥収縮は,その硬化体内部の空隙水(毛細管やゲル内の自由水)が乾燥により逸散することによって生じますが,そのメカニズムは複雑で研究者ごとに見解が異なり,毛細管張力説,分離圧説,表面張力説,層間水移動説などが提案されていますが,相対湿度40〜90%の中・高湿度領域では毛細管張力説が有力とされています*23。毛細管張力はYoungとLaplaceの式によると,液の表面張力と液面の主曲率半径の関数の式(1)で表すことができます。
ΔP=γ( 1/r1 + 1/r2 ) (1)
ここで,ΔP:毛細管張力(N/m2),γ:表面張力(mN/m)
r1,r2:液面の主曲率半径(mm)
従って,毛細管張力は表面張力に起因し,収縮低減剤の添加による表面張力の低下で毛細管に作用する内部応力を低減することができると考えられています。最近の研究では,収縮低減剤のメカニズムには収縮低減剤による表面張力の低下だけでなく,分離圧曲線の変化*24や比表面積の減少*24などが関係していることが分かってきています。
7-3 高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)の性能
(1) 収縮低減性
高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)を用いたコンクリートの乾燥収縮試験結果の一例を図7-1に示します。これを見ますと,乾燥期間26週において,通常の高性能AE減水剤に対して水セメント比に関わらず標準使用量で約12%程度の収縮低減効果が得られています。また,単位水量を低減し,高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)の使用量を増加することでさらに大きな低減効果を得ることも可能です。
高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)を全国の生コン工場に適用し,試し練りによりその収縮低減効果を調査した結果を図7-2に示します。これによると,通常の高性能AE減水剤を使用した場合に対して高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)を使用することにより平均で約100×10-6程度,収縮低減率で約13%の収縮低減効果が得られています。
高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)を各種セメントを使用したコンクリートに適用した試験結果の一例を図7-3に示します。普通,中庸熱,低熱の3種類のポルトランドセメントおよび高炉セメントB種について乾燥収縮を測定した結果,いずれのセメントについても,高性能AE減水剤(収縮低減タイプ)は通常の高性能AE減水剤に対して約10%程度の収縮低減効果を示していますが,普通ポルトランドセメントに比べて中庸熱,低熱,高炉セメントB種については収縮低減率が若干小さい傾向となっています。
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